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2006年1月18日 (水)

ダイオキシン類の環境挙動と東京都の汚染の現状

 

ダイオキシン類の環境挙動と東京都の汚染の現状

1 はじめに
 ダイオキシン類は、75種のポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)、135種のポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、12種のコプラナーポリ塩化ビフェニル(Co-PCB)からなる化合物である。その起源は、焼却、農薬不純物、塩素漂白、過去に使用されていたPCB製品など様々なものが知られているが、強い毒性を持ち、広く環境を汚染していることから社会的関心も高い。
わが国では、1999年に「ダイオキシン類対策特別措置法」を制定し、排出基準、環境基準などを定め、焼却炉対策を中心にダイオキシン類の削減を図ってきた。2002年には、目標としていた1997年のダイオキシン類の排出量の9割削減はほぼ達成されたが、過去に排出されたダイオキシン類は、難分解性のため環境中に残留している。そこで、東京都内を対象とした調査・研究から明らかになってきた汚染の現状や、ダイオキシン類の環境中の挙動について報告する。  
                                   
2. 東京都の現状      
(1) 大気圏
 図1には当所で連続採取した環境大気の各月と年間の平均濃度、及び東京都における大気へのダイオキシン類排出量の推移を示した。

 都内のダイオキシン類の年間排出量は1998年の62.3g-TEQから2002年には6.59 g-TEQ*まで減少しているが、その99%は大気への排出と推計されている。大気のダイオキシン類濃度の低下傾向は、この排出量の減少の反映と推定される。さらに、燃焼時には微小な粒子の発生が知られるが、ダイオキシン類に関しても大気中の粒径2.1μm以下の微小粒子及びガス態のPCDD/PCDF異性体の組成比は、2.1μm以上の粗大粒子に比べ、一般廃棄物焼却炉の燃焼排ガスに極めて類似していた(図2)。この点からも、燃焼が大気中ダイオキシン類の主な汚染原因であり、焼却炉対策の効果が大気濃度の低下傾向として表れたと考えられる。一方、大気濃度(TEQ)の5~10%を占めるCo-PCBに関しては、異性体組成が燃焼よりPCB製品組成に類似し、燃焼の寄与が少ないと推定された。
             * TEQ(毒性等量):最も毒性の強い2,3,7,8-T4CDDの毒性に換算した量

             * ダイオキシン類の同族体:塩素数を表す頭文字と数字で、Co-PCBの異性体はIUPAC番号で表記    

 次に、大気中のダイオキシン類のガス・粒子の存在形態と気温との関係を、図3-1、3-2に示した。ダイオキシン類は、塩素数が少ないほど、気温が上がるほどガス態の割合が増加する傾向が得られ、同じ塩素数ではCo-PCBの方がPCDD/PCDFよりガス態の割合が高いことが分かった。また、異性体間でもガス・粒子分配が異なり、塩素数だけでなく、塩素置換位置がガス・粒子の存在形態に影響することが明らかとなった。

 大気圏から水圏・土壌圏への移行経路として降下ばいじんや沈着が知られている。しかし、都内4地点、年4回のダイオキシン類降下量調査では、都心や山間部の平均降下量は最大でも2.6倍と大きな違いは認められなかった。降下量のうち湿性(降雨時)と乾性(晴天時)の内訳では、単位時間当りで見ると湿性降下量が多いが、調査期間を通じると両降下量の割合はほぼ同程度であった。
 季節による大気のダイオキシン類の濃度変動では、図1に見られるように秋・冬に高い傾向が見られた。一方、季節による組成変化からは気温の高い夏にCo-PCBの寄与率が増加し、ダイオキシン類は大気からの降下だけでなく、土壌などから大気への揮散もあると推定された。

(2) 土壌圏 
 東京都では1998年から毎年20~60ヶ所を選定し、土壌のモニタリングを実施している。5年間の平均値は13~29 pg-TEQ/gの範囲内で変動し、明確な低下傾向は見られていない。これは、土壌中のダイオキシン類は半減期が長く、削減効果が表れるには時間を要するためと考えられる。また、都内の汚染レベルは、2002年の全国平均3.8pg-TEQ/g(N=3300)に比べると高いが、図4に見られるように高濃度土壌は都内全域に散在し、都心に集中する傾向は見られていない。
 土壌の汚染原因に関しては、各地点のダイオキシン類濃度(TEQ)と焼却との関連が指摘されている異性体の2,3,4,7,8-P5CDF、Co-PCBの#169、#126の間にかなり相関が見られた。大気降下物は燃焼系の組成を示し、汚染源のひとつと考えられる。しかし、測定点毎の濃度の違いに比べ都内の降下量に地域差が少ないことから、焼却灰、野焼き(焚き火)などの関与も推測される。


    図4 都内土壌のダイオキシン類濃度(TEQ)分布
        (1999-2001年モニタリング結果)
            

 また、環境省の2000年の調査で、全国の土壌のCo-PCBの寄与率は平均7.7%と報告されているが、同年の都内のCo-PCBの寄与率は平均で11%とやや高く、なかには43%という地点も存在した。このCo-PCB組成がほとんどPCB製品由来を示唆していることから、都内各地で熱媒体などのPCB製品の土壌への漏出があったと推定される。さらに、都内の工場跡地のなかには、PCB製品の漏洩により土壌の環境基準(1000pg-TEQ/g)を超過している地域も発見されている。そのため、トランス、コンデンサー、熱媒体などのPCB製品は、都内土壌の重要な汚染原因にひとつと考えられる。
 一方、水田を中心に過去に使用された除草剤のペンタクロロフェノール(PCP)やクロロニトロフェン(CNP)由来のダイオキシン類汚染が全国で報告されている。しかし、都内土壌は水田面積もわずかであり、農用地調査からも農薬由来の汚染が見られた地点は少なかった。 
 現在、東京都は環境基準を超過した土壌の修復計画を進めているが、土壌はいったん汚染されると修復には多大なコストがかかる。さらに、土壌汚染は大気への巻き上げや揮散、雨による水圏への流入といった二次汚染源となるおそれがある。排ガス対策や焼却灰の管理が進み、焼却関連で土壌汚染が進行する可能性は低いが、引き続きPCB製品の漏洩などの土壌汚染防止に努めていく必要がある。

(3) 水圏
 都内の河川と内湾は1988年からモニタリングが行われてきた。Co-PCBのダイオキシン類への追加、分析技術の向上などから、測定結果を一概に比較できないが明確な経年変動などは見られていない。また、全国的には、都内の底質のダイオキシン類の汚染レベルはやや高い傾向にあった。
 水中のダイオキシン類の存在形態の検討からは、90%以上が懸濁物質に吸着して存在していた。さらに、水質と底質の組成には類似性が認められ、下流域や内湾の底質濃度が概ね高くなることから、ダイオキシン類は内陸部から懸濁物質とともに輸送され、下流域に堆積していると推察される。
 水圏のダイオキシン類の汚染源としては、焼却やPCB製品の影響に加え、PCPやCNP由来の報告が多い。都内の河川、内湾の場合も、CNP不純物として知られる1,3,6,8-、1,3,7,9-T4CDDやPCP不純物と指摘されているO8CDD、1,2,3,4,6,8,9-H7CDFなどの異性体が、焼却由来から推定されるよりはるかに高い比率で検出され、農薬の影響が示唆された。都内土壌と異なり水圏で農薬由来のダイオキシン類汚染が見られた原因は、都内河川の多くが広く首都圏を集水域としているためと考えられる。
 都内の高濃度汚染の例としては、東京湾に近い運河部の底質から環境基準(150pg-TEQ/g)を超えるダイオキシン類が検出された。組成からは、PCB製品の流入を示唆する高濃度のCo-PCBに加え、1,2,7,8-と2,3,7,8-T4CDFが際立って高い典型的な塩素漂白パターンが見出された(図5)。漂白由来のダイオキシン類は1980年代に問題となり、既に対策が行われているだけでなく、同地域は下水道が完備している。現在、最終的な処理対策に向け詳細な調査を進めているが、周辺に漂白関連の事業所も見あたらないため、かなり以前に塩素漂白の廃液/廃棄物の投棄または流入があった可能性がある。

 また、多摩川、隅田川、江戸川などの大河川が流入している都内湾において、底質柱状試料を採取し、年代別の堆積状況を検討した。図6に示したように、1900年以前の底質からも微量であるがダイオキシン類、PCBが検出されたが、1950年代に濃度レベルが急激に上昇し、1970年代に最大となり、その後緩やかな低下傾向を示している。

 PCDD/PCDFについては、年代の古い底質は燃焼排ガスの組成に近いが、1960~70年頃に燃焼に加え、PCPの影響が強く見られた。また、PCPの使用禁止に伴ってCNPが使われた1980年代にはCNPに特徴的な1,3,6,8-、1,3,7,9-T4CDDが最高濃度を示した。農薬の使用状況の変化を組成からも確認できたが、表層の底質に依然として農薬の影響が見られることから、難分解性のダイオキシン類が農用地に残留し、水圏への流入が続いていると考えられる。
 次に、PCB、Co-PCB については、PCB製品が使われていない年代の底質からもPCBやCo-PCBが極微量検出された。これらは、堆積物中で鉛直方向に輸送された可能性があるが、PCBに対するCo-PCBの割合が高く、Co-PCBの異性体で主に燃焼に由来する#169、#126の割合が高いため、燃焼の寄与もあると考えられる。なお、PCBやCo-PCBの濃度は、国内のPCB製品の出荷量が最大であった1970年代にピーク濃度が見られ、異性体組成からPCB製品の環境流出が汚染の主因と推定された。

(4) 生物圏
 生物の汚染レベルは、生息環境の影響を受けることが知られている。そのため、生物は蓄積性を持つ微量化学物質のよい環境モニターになるが、環境省のダイオキシン類の全国調査(2000年)において、都内湾で採取された魚介類のダイオキシン類濃度(TEQ)が全国平均に比べ、約7倍高いことが報告された。

 そこで、魚類(アナゴ、スズキ)、プランクトン及び生息環境としての海水、底質中のダイオキシン類、PCBの調査を行い、汚染源、汚染経路などを検討した。このうち魚類のダイオキシン類濃度は4.5~18pg-TEQ/g-wetの範囲にあり、環境省の調査同様に都内湾の魚類の濃度レベルが全国的には見て高いことが確認された。また、魚類のダイオキシン類濃度(TEQ)の80%以上をCo-PCBが占め、同一魚種の全国平均と比べCo-PCBの割合が10%以上高い特徴を有していた。

PCDD/F総濃度 Co-PCB総濃度 PCB濃度
湿重量当り 脂肪重量当り 湿重量当り 脂肪重量当り 湿重量当り 脂肪重量当り
底質 7.0×106 2.8×105 3.3×105
プランクトン 4.6×103 1.8×105
アナゴ 2.3×103 1.4×104 1.7×106 1.1×107 1.7×106 1.1×107
スズキ 2.1×102 9.1×103 2.7×106 1.2×108 1.8×106 7.6×107

表1 都内湾におけるダイオキシン類、PCBにおける濃縮係数(海水濃度を1として算出)

 Co-PCBが魚類のダイオキシン類濃度上昇に関与していることが示唆されたため、生物濃縮性の観点で各媒体のPCDD/PDDF、Co-PCB、PCBを検討した。都内湾の海水の濃度に対する底質、プランクトン、アナゴ、スズキの濃縮係数を比較すると、PCDD/PCDFに比べCo-PCBとPCBは2~3オーダー生物濃縮されやすいことが認められた(表1)。そのため、都内環境のCo-PCBの濃度レベルが全国的にみてやや高いことが食物連鎖で増幅され、都内湾の魚類のダイオキシン類濃度を高めたと推定される。
 現在、東京都ではCo-PCBの主要汚染源であるPCB製品の無害化処理施設の整備計画を進めている。しかし、最終処理だけでなく、処理が終わるまでの期間もPCB製品の環境流出防止に努めていくことが、都内環境のCo-PCB汚染の低減、さらに魚介類濃度の低減のために重要と考えられる。

3 おわりに
 東京都は1997年に「東京都ダイオキシン類対策取組方針」を定め、発生源対策などを進めてきた。その結果、環境大気には削減対策の効果が表れてきたが、ダイオキシン類の残留性の高さから土壌圏や水圏には明確な改善傾向が表れていない。
 ダイオキシン類問題は、残留性の化学物質による環境汚染が発生すると、その修復には長い時間と膨大な労力・コストがかかることを示唆している。そのため、環境問題が顕在化してから対応するのではなく、次世代へ残す環境を考慮したライフスタイルの創造や環境対策を進めていくことが求められる。

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